冬コミC83の新刊、百合小説本の一部をアップします。
今回はずっと温めて来たお話で、素敵な絵師さんとデザイナーさんと共に作りました。
お気に召せば大変に嬉しいです。
是非冬コミでお会いしましょう!

絵の、赤い髪のキャラクターが主人公の躑躅(つつじ)、そして、後ろ姿のキャラクターがそのつれあいの滅藍(けしあい)です。
「ほろほろほろびゆく、わたくしの秋」
そう呟いて、躑躅は苦く笑った。
髪を掻き上げ、秋空を見上げる。
紅葉と同じように風に散らばる自分の髪。
不安な心象のまま唇を触る。
自分の体の事だ、諦めはついている。
けれど、残してゆくものの大きさに、少しだけ躑躅は眉を曇らせた。
「あの子が、……しあわせでありますように」
そう空に流した。
クリックして、本文の一部をご覧くださいね。
「躑躅(つつじ)?」
「あら、わかっちゃった?」
と、躑躅色の髪を靡(なび)かせて、
「折角、跫(あしおと)消して来たのに」
躑躅と呼ばれた女は残念そうに言葉にして、微笑した。
「今日はなぁに?」
と、畳の上に正座した、勝色(かちいろ)の髪の女が訊ねた。彼女は滅藍(けしあい)と云う。
躑躅は、廊下から座敷の中へ入り、
「別にー。勝(かち)色(いろ)に会いに来ただけ」
と、言い乍ら、隣に腰を下ろした。
「うそつき。蘇芳(すおう)の、十二代目がそういう物言いをするのだから」
「むー。ばれちゃあ仕方ない、滅藍」
「なぁに?」
「あの子を頼むわ」
あの子とは、塗師(ぬし)である躑躅の立ち上げた『躑躅』という銘を二代目として名ごと継いだ青い髪の躑躅(少女)の事であったが、口に出したら何となく、予言めいて、躑躅は刀匠の退紅(あらぞめ)を思い出した。
蘇芳家の跡取りでもある躑躅は、同時に弓道宗家の当主でもあった。
「……それは、何? 遺言?」
「う~ん、遺言かもぉ?」
躑躅が悪戯っぽく茶化すから、気に食わない滅藍は、
「そう。じゃ、そういうことにしてきましょうか」
氷のように詰めたい声で刃物のように切り捨てた。
「ああん! 冷たい!! 冷たいわ滅藍!!」
芝居がかって躑躅が叫んだ。
けれど、それからは、沈黙が流れて、時間がゆっくり。
進むのは不安な気持。
ついに折れた滅藍が、口を開いた。
「……わかったわ。遺言ね」
ふっと、滅藍の色が泣きそうに歪んで、揺れた。
そして、続けた。
「なんでそんな不謹慎な事を言うの? 不吉だわ、躑躅」
見詰められて、苦く笑って、躑躅はそっと、ごまかすように優しく触れた。
くちづけを、落とす。
ただ触れるだけのそれでは、滅藍は満足できなくて、どうしても口を開けて、その先を、促してしまう。
躑躅は、滅藍の顎を軽く握(にぎ)った食指(ひとさしゆび)で掬う。そして、自由な親指で唇を触った。焦らされた滅藍は、
「キスする時って」
また、語る。
「ん?」
躑躅が、あいづち。
「どうして口をあけてしまうのかしらね」
なんて自分に笑いながら言った。
予想外の言葉に、面喰らい、ぽかんと、一瞬、憮然とした躑躅は、
「……さあ?」
と、笑って、滅藍の背を抱いた。
躑躅の答えは、終(つい)ぞ公表されなかった。
「そうね、わからなくていいものかもしれないわね」
滅藍が、ひとりごちた。
でも、滅藍は躑躅の指先が背を滑り、片手が自分の胸を絹越しに触る頃に、(それは深いクチヅケへの期待)そう急に感じて、思考した。
雨音が戸を叩いた。
「少し、濡れていたのは雨のせい、ね」
躑躅の長い髪を手で弄り、滅藍が告げる。
滅藍の短めの髪の向こうの頭蓋を抱えて躑躅が囁く。
「台風、来るんだって」
「へえぇ」
「あら、信用してる?」
「ええ。ちゃんと」
言葉だけは雄弁に。
キモチは多分、空言。
「さてと」
小さく掛け声。それから、躑躅は長い髪を簪(かんざし)で纏めると、帯留めを取り、文机に載せた。
そんな彼女を滅藍は、まるで演劇でも見るように、ただ鑑賞していた。
「抱いていい?」
聞いた当人はもう裸で。
着抜きの着物が周りに散らばっていた。
尋ねる癖に、躑躅は答えを聞く前に滅藍を脱がし始めていた。
「躑躅、それ、ひとの服脱がせながら訊く言葉?」
滅藍は答えの代わりに問うた。今更だとは思っていたが、一応の確認の為に。勿論、彼女は現在進行形で躑躅に着物を脱がされている。
「うん!」
躑躅は完璧な笑顔で元気良く答える。
「断られたらどうするの?」
「アラ。元に戻すのよ、着付けるわ」
大したことではないと言いたそうな顔で躑躅は述べて、手だけを器用に動かした。この時点で滅藍は半ば裸だった。
「あら、そ」
言葉は矢鱈(やたら)正直で、呆れが率直に表れて居た。けれど、身体は裏腹で、全く抵抗の意思などなく、寧ろ、躑躅の脱がせやすいように動いている。
「ほら。滅藍は流されてくれるもの」
「いけない?」
少し不機嫌な声が漏れた。そんな滅藍に躑躅は艶然と微笑む。
「最高」
匂い立つような色気を感じた。
どちらともなく、この、甘い雰囲気の常習性に巣食われている。
「愛してる?」
滅藍が問えば、
「愛してるわ」
誓うように指先にキスをされた。
何だかそれが非常に嬉しくて、滅藍は上機嫌。
じゃあ、と雪崩れ込めば、躑躅は相変わらずのあの笑顔。
そんな彼女を。
にゃあ、と目を細めた猫のようだと思った。
No title
今年の冬は一等寒いみたいなので、インフルに気をつけてコミケに臨んでくだされ!
名前: バグ [Edit] 2012-12-01 18:27
バグさんありがとうございます!!
そして、お褒め戴いて、すっごく嬉しいです!感激だ-!
ありがとうございます!
嬉しい嬉しい!身体に気をつけて、がんばります!
バグさんもお体ご自愛くださいね!
名前: 雨宮小夜(あめみや・さや) [Edit] 2012-12-01 19:21
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